ビジネスの世界ではよく話題になる「三方良し」。
表の意味では売り手・買い手へのメリットや社会貢献と言われることが多いですが、別の解釈も存在します。
三方良しには「いい商品」についての考え方が詰まっており、その本質を知っておいて損はありません。
単なる綺麗事ではなく、現実に即した考え方が凝縮されています。
目次
「三方良し」の本質
三方良しは商売や経営のあるべき姿とされています。
たしかに顧客と自分の両方にメリットがある商売は理想的ですし、社会貢献までできれば言うことなしです。
近江商人の商売十訓
①商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
②店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
③売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる
④資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし
⑤無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ
⑥良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
⑦紙一枚でも景品はお客を喜ばせる、つけてあげるもののないとき笑顔を景品にせよ
⑧正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ
⑨今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
⑩商売には好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ
出典:三方よし(売り手よし 買い手よし 世間よし)/近江商人の格言・名言
引用した内容からは、物やサービスを売ることに対する誠実さがあります。
- 買った後のサポートが重要
- 顧客に良い物を提供し、安売りはしない
- 景品を付けて売る
これらは商売をするうえでの基本中の基本。
普遍的な知識としてどのビジネス書にも書いてあることですから、それほど重要なことです。
ただ…
なんで「世間よし」が強調されるの?
商売をするうえで三方良しが重要なのは当然です。
しかし三方良しは必要以上に強調され、商品やサービスの素晴らしさについて強調されることも少なくありません。
もし本当に三方良しや社会貢献ができているとしたら、わざわざそれを強調する必要もないでしょう。
ボランティアについて語る就活生と同様、強調するのには裏があります。
要は、近江商人も社会貢献など考えてもいなかったということだ。ではなぜ「世間よし」と言ったのか。これは、とかく批判されがちな金儲けという行為を正当化するための一手段だったという。「世間よし」の例としては、例えば、江戸の周辺で米が不作で、大阪の米を全て江戸に持っていって売ったほうが儲かる状況がある。近江商人はこのときに3割くらいは地元に残したというのだ。これが「世間よし」だ。
出典:田原総一郎氏も勘違いー近江商人の「三方よし」の世間よしの意味|日本ファミリーオフィス協会
儲けたことを公言すると叩かれる社会。そのような状況下では儲けることが卑しいとされます。
もちろん商売をする側も黙っているわけではなく、印象のいいキャッチフレーズを使ってマーケティングやブランディングをするわけです。
お金儲けだけを語ると叩かれるから、社会貢献という言葉を使って叩かれないようにする。
つまるところお金稼ぎの正当化をしているのです。
もちろんお金稼ぎすることは尊いですし、税金や雇用など、長い目で見れば社会全体のためにもなります。
それでも一般論では「お金儲け=汚い」ですから、お金儲けをストレートに主張しても受け容れてもらえません。
「世間良し」という社会貢献のフレーズ、もっといえば「三方良し」という考え方そのものが、商売人たちの知恵なのです。
お客様第一とは何なのか
三方良しと同じような考え方として「お客様第一」というものがあります。
お客さんに対しては質のいい商品を提供し、顧客を喜ばせる。
この「お客様第一」に対しても裏の解釈が存在します。
先ほど三方良しがお金儲けの正当化だというのを取り上げましたが、要は儲けるための言葉なわけです。
儲けたい人が儲けるためのカモフラージュに使い、叩かれるのを防ぐための言葉。
解釈の仕方によっては「儲けたい」のひと言に要約でき、それをお客様第一に当てはめると「いい商品」に対して別の解釈が浮かび上がってきます。
たとえばお客さんが「いい商品が欲しい」と言っている場合、「いい商品」とは何なのでしょうか?
性能に優れた商品?
有名な大企業の商品?
安くてお金のかからない商品?
ひと言に「いい商品」といっても解釈はさまざまにありますので、お客さんの立場に合った商品を選ぶ必要があります。
有名な大企業の製品を欲している人に、無名の商品を紹介しても売れません。
安い物を求めている人に高機能高価格な商品を紹介しても売れません。
このように「いい商品」の定義も異なっており、商品を売る側がこれと断定するものではありません。
価値観に沿って商品を提供
つまるところ、儲けるためにはお客さんに買ってもらえる商品を紹介する必要がある。
これを元に考えた場合、売り手の考える「いい商品」が、必ずしもお客さんの考える「いい商品」と一致するわけではないのです。
相手が求めていないものを提示しても、買う気がないから売れません。
儲けたいならお客さんの価値観に沿って商品を紹介することが必要です。
お客さんの価値観や考え方を汲み取り、それを踏まえたうえで商品を紹介する。
これが「お客様第一」の裏の解釈であり、売り手の考えるいい商品が顧客にとって必ずしもウケるわけではないのです。
人を幸せにする人が幸せになれる
上記したお客様第一の解釈は、「お客さんの好むものではなく、お客さんのためになる物を売る」という点に一見して矛盾する考え方です。
しかしお金儲けの正当化がベースにあると考えた場合、
- お客さんの言葉を真に受けてはいけない
- お客さんは本当に欲しいものを言わない
となり、矛盾はなくなります。
人の価値観を理解し、幸せとは何かと真剣に向き合うことが儲けにつながる。
結局、たくさん儲けて幸せになれるのはお客さんを幸せにできる人なのです。
「幸せな気持ち」が重要
お客さんのニーズを汲み取ることに対しては、「幸せな気持ち」という表現を使うのが適切でしょう。
要は夢を売るというやつで、お客さんが幸せを感じられる商品を売るということです。
自分が商品紹介をするとき、自分ではそこまでいい商品と感じていない。
しかし相手からすれば欲しくてたまらない商品で、紹介することで喜んでもらえる可能性がある。
このような状況において、相手を幸せにするというのは商品を紹介することであり、商品を紹介しないとかえって相手は悩み続けてしまいます。
営業が物を売りつける仕事というのが一般論である以上、商品紹介についても長期で使っていけるものを紹介するのが正解と考えてしまいがちですが、必ずしも正解とは限りません。
紹介できる商品に対して「相手はどう思っているのか」が大切なのです。
まとめ:「お客様第一」も解釈が重要
「お客様第一」
「三方良し」
「世間よし」
これらの言葉に対して何を考えるかは自由です。
しかし世の中にある格言にはほとんどの確率で裏の意味が存在し、これらの言葉も例外ではありません。
お客さんのニーズを考える際、どうしても「この商品はダメだ」と考えてしまいがちですが、もしかしたらその商品を欲している人がいるかもしれません。
商品に対するバイアスが利益を減らしてしまうことも少なくないため、相手の価値観に沿って考えることが重要なのです。